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小説 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 フィリップ・K・ディック 星2つ

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか
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1. アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

映画「ブレードランナー」の原作であり、SFの古典名作といえる作品。特徴的な日本語訳タイトルの語感も有名で、多くのパロディ元になっています。

そんな本作、設定そのものは面白いのですが、特にどんでん返しや繊細な感情描写があるわけではなく、「まぁ、こうなるだろうな」という展開が続く印象。あまりにもベタだと感じてしまうのは、本当に面白くないからか、古典の中の古典だからか迷ってしまいます。

2. あらすじ

舞台は第三次世界大戦後の地球。核兵器の使用により荒廃した世界は人間が住むのには適さなくなってきていた。

そんな中、火星への移住計画が進むが、地球に残っている人々もいる。主人公、リック・デッカードもその一人。

そして、リックの職業は「バウンティ・ハンター」。火星から逃亡してきたアンドロイドを「処分」する仕事である。

ある日、リックが勤めるサンフランシスコ警察署で事件が起こる。リックの同僚ハンターであるデイヴ・ホールデンがアンドロイドとの交戦で大怪我を負ったのである。デイヴを負傷させたアンドロイドを撃退すべく、リックは行動に出る。危険な任務だが、リックには夢があるのだ。

それは、本物の動物を手に入れること。多くの生物が絶滅したこの世界では、本物の動物を飼育することこそステータスになっている。電気羊しか持たないリックは、賞金で本物の動物を購入する野心を胸にアンドロイド狩りに出撃するのだが.......。

人間とアンドロイド、電気羊と生きた羊。本物とは?偽物とは?人間の本質を問うサイエンス・フィクション。

3. 感想

精巧なアンドロイドに対峙するリック(=人間)の心理がこの本のテーマとなっております。作中に出てくるアンドロイドはあまりによくできているため、一見して人間とは区別できません。そこで登場するのが、フォークト=カンプフ感情移入度検査法。「感情移入」という人間独特の感性を持っているかどうかを試すテストです。

しかし、このテストには精神に障害のある人間も引っかかってしまいます。それどころか、新型のアンドロイドは際どい引っかかり方しかしません。その他にも、リックが人間をアンドロイドではないかと疑ってしまったり、あるいは、アンドロイドと共生しようとする人間が現れるなど、その境界の曖昧さが描かれます。

そして、人間たちの精神のよりどころになっているマーサー教も物語のポイント。「感情移入する」特性を上手く活かして、人々を騙していたことが明らかになります。とはいえ、テレビが「マーサー教の虚偽」を発表すればたちまち誰もがテレビ報道の方をを信じほど「テレビ教」が蔓延しているというのは本作の世界観からするとやや不自然に感じられます。これ以外にも、アンドロイドとの一連の戦闘や駆け引き、最終版に主人公が逃亡する場面など、「人間とアンドロイドの境界を問う思索」以外の場面では都合主義的で強引な展開が随所に見られてしまいます。

また、人間とアンドロイドの区別がつきずらいことそのものがあたかも「すごいこと」のように描かれており、そうした特性を活かしたどんでん返しがないのも辛いところ。部分部分には面白いところもありますが、やや色あせた古典という印象でした。

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